地下水管理と住民の取り組み

6 問題の所在

(1)唐突な決定

今回の市水道部の決定は、あまりにも唐突である。昭和53年協定の趣旨にも反する。

一般的に考えれば、翌年3月末に休止する場合、よほど緊急性を要することが発生したと考えられる。ところが、その理由は、市水道部が10年前から検出を把握しており、給水に問題なしとしてきたトリクロロエチレン等発ガン性の疑いがあると水道部が言う2物質が原水に含まれていることなのである。

事実、市水道部発行の報告書(毎年度4回検査。「水質検査結果について」)には、「原水の一部で基準値を超えましたが、浄水及び給水では全て基準値内で異常ありません」と記載されている。(この報告書をみれば、テトラクロロエチレンは、10年間継続的に基準値を超えているのではない事実も判明。)

また報告書には、開・槙島以外の浄水場の原水にも、トリクロロエチレンよりも発ガン性が高い「四塩化炭素」が検出されていることや、鉄・マンガン・一般細菌などが基準値を超えて、数年~10年間検出している事実も明記されているのである。

さらに、突然に決定した理由としていた「環境省の指導」はなかったことが、議会での追及で明らかになり、ウソがばれている。(市水道部は思い違いと述べているが、水道水の管轄は厚生労働省で、環境省ではないことを知らなかったというのだろうか。)

一体、何故、このような決定が、急遽されたのか。この謎を地元住民は知りたいと思っている。

(2)データの意識的操作

市水道部は、原水中の発ガン性の疑いがある物質の存在を金科玉条に、またそれを強調するために、データの意識的操作を行っている。水質悪化進行を印象づけるため、近年5年間だけのデータを使用したり、突出した数値だけを強調している。さらに公表資料の一覧表では、数値を一桁多めに記載した部分もある。これらをもとに水質が年々悪化、改善の見通しはない(汚染調査をしておらず、根拠がない)と発表している。しかし、住民説明会で市水道部も認めたように、10年間のデータでみれば、水質の悪化が進行している事実はない。

(3)浄化装置で解決可能でも、給水停止が必要か

「飲み水の原水に発ガン性の物質がある。発ガン性物質はないに越したことはない。府営水という代替水があるからいいではないか。」この論理が、正確な情報を得ていない他の地域の住民や議員などに、給水停止やむなしと納得させているようである。( のちに、水道部は発ガン性の疑いのある物資と言葉を変更)

しかし、例えば府営水の原水―琵琶湖・天ヶ瀬ダム水に、環境基準値を超える発ガン性物質が検出された場合、直ちに給水停止をするだろうか。むしろ浄水機能を向上させる対策を講じるのではないかと、地元住民は考える。

事実、問題になっている物質は、「曝気処理」で解決できるのである。薬品もいらない。このことは市水道部担当者も認めている。平成3年度に開浄水場に曝気処理―エアレーション装置が設置され、その結果、「エアレーション装置の効果で、トリクロロエチレンの検出量が大幅に改善された」と報告書でも明らかにされている。

(テトラクロロエチレンは、継続して検出されていないことや、他の浄水場でも検出されている事実もあり、徐々に、この問題―休止理由―から、はずされてきているようである。)

(4)飲み水の水質は最高に良い

開浄水場からの給水は、全水質項目において良質である。問題の2物質は水質基準値の10分の1以下。発ガン性指標の一つである「総トリハロメタン」(塩素処理で生成される発ガン性のクロロホルム及びその構造のよく似た3種の化合物)は、検出されておらず、原水中の汚濁物質が少ないことを物語っている。塩素と曝気処理だけの給水が、切り替え予定の府営水(オゾン・活性炭使用の高度処理水―市水道部)よりも良いのである。

さらに給水の質にとって、配管経路が短いことは、大きな利点である。

(5)環境基準は行政目標、なぜ給水停止の根拠に

【1】 地下水原水で検出の発ガン性の疑い物質―トリクロロエチレンの環境基準を理由に、市水道部は給水停止を決定している。しかし、環境基準は、水質保全のための基準であり、維持するための「行政上の施策の達成目標である。」

環境省は、「地下水の水質汚濁に係る環境基準の取扱いについて」で、次のように通知している。「地下水の重要性及び近年における地下水の水質汚濁の状況等を踏まえ、地下水の水質保全のための諸施策を総合的な観点から強力に推進する際における共通の行政目標として設定されたものである。(「環境基準について」各都道府県知事・各政令市長あて環境事務次官通知 環水管79号)

市が求められているのは、地下水保全のための政策である。汚染の原因調査と原因の究明。汚染源を特定し、汚染者負担の原則に基づく改善指導等の施策である。

【2】 発ガン性物質云々といえば納得されやすい。しかし、「水」の専門家で水処理関係者には著名な中西準子横浜国立大学環境科学研究センター教授は次のように述べる。『「発ガン性物質は少量でも危険があるから駄目」という考え方は、「非ガン性物質は、何種類接種してもそれぞれがADI以下なら安全」という考え方の裏返しであるが、これは事実に反する。』『総合して毒性を評価するという考え方がないからである』(水の環境戦略・岩波書店・1994.7)飲料水における毒性の問題は、一つ一つの物質を問題にするだけでは、本当の安全性とは言えないのである。

※ADI―人体に影響のでない量。1日許容摂取量。
※環境基準における数値は、1日2リットルの水を70年間飲み続けて、10万人に一人が発ガン性の確率。

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